長野県 片桐花卉園
上伊那アルストロメリアのパイオニア
長野県上伊那郡の南部、西に中央アルプス南駒ケ岳を仰ぎ、東には仙丈岳を中心に南アルプス連山を遠望する「二つのアルプスが見える町」飯島町に片桐花卉園はある。
中央アルプスから流れ出る与田切川、中田切川などの清流が流れ水資源は豊富。稲作や梨などの果物栽培が盛んで、国道を走っていると、至る所に袋を付けた実が、枝にぶら下がっている姿が印象的な地域だ。
片桐花卉園 2代目 片桐鏡仁(アキヒト)さん(以下片桐さん)は、イギリスで勉強した英語をいかしオランダ のKunst(クンスト)アルストロメリア(種苗会社)で6ヶ月間研修。現在でも連絡をとりながら、新しい品種の導入(写真の八重咲き エクスプロージョン)や、栽培の管理に情報を役立てて、約20種のアルストロメリアを育てている。
そして枝ものや草もの、葉ものに至るまで、少量多品種の栽培をおこない、季節感のある繊細な草花を栽培していることでも有名「何か面白いものがある」と市場関係者から声が聞かれる程だ。早くから家業を継ぐ事を決めて、花と向き合ってきただけに、既に品種選定から、栽培方法まで決定権を任せられ、近年周年出荷をおこない、高品質な繊細なアルストロメリアを出荷し続けている。
35、6年前、果樹栽培から花き栽培へと切り替え、リンドウを育て始めた片桐さんのご両親。「東北のリンドウに負けない品質のものを育てられないか...」と研究、栽培しながらも、30年前に千葉県の三宅花卉園さん、小森谷ナーセリーさんのハウスを訪れ、アルストロメリアと出会い、いち早く栽培(その時代はJA上伊那に属す)したことで、上伊那地域は、アルストロメリアの産地として時代ともに確立し、秋から春の出荷というサイクルで栽培されるようになった。
周年出荷へ
「もともと夏は北海道のアルストロメリアがちょっと出回っていただけでしたが、ここ数年でかなり様変わりしました。高冷地のうちの辺りでも夏には5~6年前はほとんど出荷していません!」という片桐さん。
夏に収穫するというのは暑さに弱いアルストロメリアにしたらかなりのストレスになるうえ、夏に切ることによって、株を弱らせて秋に出荷が減ってしまう...。
それでも「市場からの要望もあり、6~7年くらい前から色々技術、品種の向上などで少しづつ出荷をはじめ、今では数こそ少ない物の、完全に周年出荷できるようになりました。それにともなって、今では他産地の生産者も夏に出荷している所もあるようになりました」と語る。
より良い花を育てる為に...
夏場でも冬場でも花もちが良いと評判の片桐さんの花。それには様々な設備にも大きく関わっている。
バラ栽培などを中心に、重油を燃やして熱をとるのではなく、電気で冷暖房、除湿もおこなえる『ヒートポンプ』。
アルストロメリアの裁培の善し悪しには、気温だけでなく、土の温度も影響するため、地中にパイプを通し、夏は冷水、冬は温水を流して土の温度を一定に調整出来る『地中冷房』。
朝4時過ぎから日長が約12時間になるようにし、冬場でも安定して綺麗な花をお届け出来るように設置されている『ナトリューム灯』。
温室内の空気を外に排出して外の空気を除湿して温室に戻すシステム『ドライファン』。
効果はどれだけ大きいかわからない部分もあるようですが、光合成を促進させ生育を良くさせる『二酸化炭素発生装置』などなど。
常に何かを考え、取り入れ、やってみる。そんな片桐さんの姿勢が満載(取材後もハウス外の冷たい風を取り込むファンを設置...写真はブログより抜粋)で、毎年「より良い花を育てたい」という想いが感じられた...。
えんどれすどりーむ かたぎり
育種も独自に交配し、おこなう片桐さん。「アルストロメリアはまだまだ解っていないことがあるのです。たとえば、成長点が成長のどの時点で花芽が形成されているかはわからない部分もあります!」と語る。
一本一本鋏で切って採花するアルストロメリア。残念ながら伺ったのは7月頭。花はほんの少ししか見る事が出来なかったが、大きな山々を背景に大きなガラスハウスが高低差100メートル程に乱立し、広大な露地にはサマーヒヤシンスやパイナップルリリー、斑入りヒペリカム「初霜」、草花などが咲いている風景は圧倒的な印象を受けた。
ハウス一面に咲き誇るアルストロメリア...アルプスに挟まれるハウスの絶景をまた見たい...出荷箱に書かれる「えんどれすどりーむ」...アルストロメリアにかける片桐さんの夢への挑戦は永遠に果てしなく続く...。